桜には少々早い今年の3月のことでした。
その後ふたりで宿泊する予定だった楓の間は、主人が急きょ入院することになり私ひとりで宿泊。
桜が満開の4月上旬のことでした。
そして8月。
初めて安八スマートインターチェンジを利用して名神高速に乗って京都へ。
主人の仕事の都合上少々日にちは前後しますが、お誕生日の京都俵屋さん宿泊。
ようやくいつもの俵屋さん、主人とふたりの俵屋さんです。
1年前の誕生日に宿泊した際、帰り際に予約した今年のお部屋は新館2階の招月の間。

・・・ですがすぐには向かいません。
こちらも恒例になりました、岐阜の老舗和菓子屋さん“松花堂”さんでかき氷を頂いてから京都へ向かいます。
玄関先の蚊取り線香の香りをくぐると、土間の冷やりとした空気。
夏のお菓子が並びます。

水が跳ねてきそうなお軸と滝のようなお花。

なんて優雅なことも言っておられません。
暑いものは暑い、かき氷で涼をとらねば外はうだるような暑さ。
黒糖、お抹茶、和三盆のかき氷、どれにしようか家を出る前から悩みに悩んで主人はお抹茶、私は黒糖。
やはりかき氷はシンプルなのに限ります。

気分もシャキッとしたところで一路京都へ。
はい、京都には向かいました、真っすぐ。
ですがまだ俵屋さんには向かいません、寄り道第2段です。
松風で有名な京都の老舗和菓子屋さんですが、私はこちらの“珠玉織姫(たまおりひめ)”というお菓子の大ファン。
いつもは取り寄せですので、お店にお邪魔するのは初めて。
思っていた通りの小さな雰囲気のある和菓子屋さん、松屋藤兵衛さんです。

お店の奥には見覚えのある縞の紙箱。
そうそう、珠玉織姫もあの箱に入って送られてくるものね。

後で聞くと38℃越えの京都で、主人決死の寄り道でした。
主人って汗をかかない分、暑さには極端に弱いのよね。
そんな暑さに弱い主人を励まし励まし、朝食時用のほうじ茶を買いに柳桜園さんへ。
お買物も済ませ、晴れて目的地の京都俵屋さんへ。
主人、心なしか顔が火照っております。

今年は招月の間。
前回ひとりで宿泊した楓の間のお隣です。

こじんまりとしたお部屋だと聞いておりましたが、いえいえふたりには十分過ぎるひろさ。
お昼寝ベッドの奥には、お隣の楓の間と通じる楓がじんわり微動だにせず茂っておりました。
さすが京都の夏、そよと吹く風すらありません。

ですがお部屋の中はひんやり畳の香り。
お軸の朝顔が見るからに涼し気です。

涼しい室内から眺める京都の夏。
陰と陽、光のコントラストが綺麗でした。

おっ?
テーブルの上に目をやると、嬉しい誕生日のプレゼント。
わらび餅を頂きながら、夕食の時間まで程よく冷やして頂くことと致しました。

わらび餅を頂いて主人も回復したようです。
俵屋さんではいつも私がいちばん風呂。
湯船からザバーっと溢れるお風呂に誕生日を実感致します。

主人も湯船にゆっくり浸かったら、浴衣姿でカラコロ下駄をならして近所のバーへ。
軽く2杯ずつ頂いて、大慌てで俵屋さんへ戻ります。
いつも遅刻しちゃうんだな、ごめんなさい。
毎年この時期、夏野菜盛りだくさんの夕食が何より楽しみです。
早速お誕生日プレゼントに頂いたワインをグラスに注いで夕食スタート。
3色の滝川豆腐が目を引きます。
小さな椀の中にはひんやり冷たい冬瓜、鮑が下に潜んでおりました。

穴子の千利造りはすっきりポン酢しょうゆで。
お醤油の色にすら見惚れてしまいます。

パン粉をまぶしたコロッケ仕立てのカボチャ饅頭。

香りで次のお料理が分かります。
いつもの鮎の笹焼き。
私の誕生日、夏の俵屋さんと言えばこれ。

鰻の柳川焼きで夏に負けない体力づくり。
夏生まれですから夏には強いのですが。
そう言えば今年の土用の夏の日は鰻とは無縁でしたものね。

黒川さんの手にかかると焼き茄子もお上品。
飯蛸の卵が添えてありました。

器も涼し気な強肴。
小蕪の白が梅酢味噌に映えます。

止椀とは言いながら、美しい水茄子の糠漬けでもうちょっと日本酒の余韻を楽しみます。
茄子紺が美しい糠漬け。
仲居さん曰く、あれよあれよという間に変色してしまうので大慌てでお持ちするんですよ、と。

そう、今回の宿泊からお世話になる仲居さんはお初の方。
姿見はいつも用意しておいてくださるのですが、もしよければと衣装敷きまでご用意くださる心遣いの行き届いた方。
是非今後もお願いしますと主人とふたり頭を下げてご挨拶。
新しい仲居さんにすっかり打ち解けた夫婦の図。

・・・ただの酔っ払いかしら。
受け皿も素敵な桃のゼリー寄せ。
今年初の葡萄ですが、主人は既に葡萄を近所の葡萄農園に予約してあるそうです。
今週の金曜日は葡萄祭りだそうですよ。

パリッとした麻ケットとやわらかなパジャマ。
そう、麻ケットもパジャマも家で使っているものと全く同じものなのに、肌触りがそうとは思えない程異なるのは何故?
それを言い始めると、バスタオルだって同じはずなのに・・・

折角の誕生日、折角の俵屋旅館 “招月” の間、細かなことは言わず贅沢に身をゆだねましょう。
翌日のお洗濯のことも考えずにね。
主人と私、今の悩みは明日の朝食をぐじにして本当に良かったのか、それだけです。
私はともかく、主人は最後の最後まで鮭かぐじかで悩んでいましたから。
